「辞めます」と言われた瞬間、
多くの院長は反射的に引き留めようとします。
「もう少し待って」
「給料を上げるから」
「もっと早く相談してほしかった」
そんな言葉が思わず出てきてしまうのは、
自然なことです。
採用にかかるコストや、
育ててきた時間、
タイミングの悪さを考えれば、
焦るのは当然でしょう。
しかし、その引き留めが
かえってスタッフの心を遠ざける可能性がある
ということを、
多くの院長はあまり意識していません。
この記事では、
引き留めが逆効果になるメカニズムと、
院長として本当に大切な対応について
整理します。
「辞めます」という言葉が出るまでに、何が起きているか
スタッフが辞意を口にするまでには、
長い時間がかかっています。
多くの場合、
「もう少し様子を見よう」
「言っても変わらないかもしれない」
「引き留められたら面倒くさい」といった、
静かな準備期間があります。
転職先を探したり、
ほかの歯科医院の話を聞きに行ったりと、
決意がある程度固まった状態で、
ようやく「辞めます」という言葉が出てきます。
つまり、
「辞めます」はプロセスのスタートではなく、
ゴールに近い段階なのです。
この前提を理解しておくことが、
院長としての対応を変えるうえで重要です。
引き留めが逆効果になる3つの理由
① 「やっぱり何も変わらない」と確認させてしまう
退職を申し出るスタッフの多くは、
「本当はここを変えてほしかった」
という気持ちを抱えています。
しかし引き留めの言葉が
「給料を上げる」
「もう少し頑張って」といった内容であれば、
「やっぱり根本的には変わらない」
という印象を与えてしまいます。
引き留める理由が
「院長の都合」に映るほど、
スタッフの気持ちはますます遠のきます。
② 感情的な引き留めは、相手に罪悪感を与えるだけになる
「あなたがいないと困る」
「信頼していたのに」という言葉は、
院長の本音であったとしても、
スタッフが感じるのは
「辞めることへの罪悪感」です。
罪悪感によって退職を諦めたスタッフの
仕事に対するモチベーションが戻ることは、
ほとんどありません。
職場にいながら、
気持ちはすでに半分外に向いてしまいます。
③ 退職の意向は、引き留めで「なかったこと」にはならない
たとえ引き留めに成功しても、
「辞めようとした事実」そのものは消えません。
同じ問題に再び直面したとき、
スタッフは「今度こそ辞めよう」
と決心して周到に準備を進めるでしょう。
引き留めで時間を稼いだだけで
環境が変わらなければ、
数か月後に同じ結果を迎えることが
少なくありません。
では、院長はどう対応すればよいか
まず大切なのは、「聴くこと」です。
「辞めます」と言われたとき、
反射的に引き留めるのではなく
今まで働いてくれてありがとう。
正直に話してくれてありがとう。
よければ、もう少し
話を聞かせてもらえますか?
と、寄り添う言葉から始めてみてください。
この姿勢があるだけで、
スタッフが素直に気持ちを話せる空間が
生まれます。
退職の本当の理由には、
職場環境への不満、業務量の問題、
人間関係の疲弊など、
さまざまなことが隠れている場合があります。
こうした本音は、
引き留めようとしている相手には
話しにくいものです。
「聴こうとしている」という姿勢があるだけで、
相手の警戒心は少しずつほぐれていきます。
『辞める人』より『残る人』への投資が、長期的な安定につながる
引き留めに時間とエネルギーをかけるより、
今いるスタッフが
「ここで働き続けたい」
と感じる職場を作ることのほうが、
長期的に考えて圧倒的に重要です。
退職者が出るたびに引き留める院長は、
「この院長に言えばなんとかなる」
という認識より、
「この人に言っても根本は変わらない」
という印象を職場に蓄積させていきます。
逆に、
退職を申し出たスタッフを尊重して
気持ちよく送り出した院長の職場では、
「最後までちゃんと話を聞いてくれる」
という安心感が生まれ、
働いているスタッフが
「何かあれば正直に言える」と
感じやすくなります。
おわりに
「辞めます」と言われて焦るのは当然です。
でも、
その言葉が出た背景には、
それまで言えなかった何かが積み重なっています。
引き留めようとする前に、
一度だけ立ち止まってみてください。
「何を抱えていたのか」
「なぜ今まで言えなかったのか」
その答えの中にこそ、
職場が変わるヒントがあります。
スタッフが正直に話せる職場は、
引き留めなくても
長く続けたいと思える職場になるでしょう。





